ティモール短信(NO16)    
ティモール短信(No16)
JDRACEOD東ティモール現地代表
    久光 禧敬

 2006.10.27
 こちらに到着して約20日経過しました。国連の特別調査グループのReport of the United Nations Independent Special Commission of Inquiry for Timor-Leste、つまりREPORT OF CRISIS In TIMOR-LESTE(東ティモール危機の調査報告)の内容が10月5日にジュネーブで発表され、その報告書が東ティモール国議会に送られてきました。こちらには15日前後に届いたようです。私はその要約書をPNTL(国家警察)の実務上のカウンターパート、ヘルマン警部からもらい、その後、79ページに及ぶ全文をインターネットで取り寄せました。
 これには、今年1月のF−FDTL(国軍)兵士591名の大量脱走、そして彼らの解雇に始まったこの国の騒動。この解雇問題に対する大統領と首相の意見の違い。解雇者が全員西側出身者だったことによる、東側出身者と西側出身者に潜在していた対抗意識の顕在化。4月末、解雇者グループのパレード最終日に何者かによって突然起こされた政府庁舎前での暴動、そしてクライマックスを迎える5月25日、思いも寄らぬ国軍と国家警察の銃撃戦そして大惨事までを、時系列にまとめており、また今後のこの国対する提案までも含まれています。私たち外人にも理解しやすい内容となっています。 今までこの国の政府調査グループが発表した調査結果とは違い、非常に客観的かつクリヤーで、この調査内容は、この国のインテリ階級には評判がいいようです。一般の国民には公表されていませんが。
 しかし、この調査結果によると、誠に残念ながら、私どもの不発弾処理教育の東ティモール国のカウンターパートであった内務大臣ロバト氏、警察庁長官パウロ氏が、一連の騒動の間、両者の治安指揮は不適切であり、かつ、法律に反して、二人とも警察の武器を一般市民に配った事実があったなどとその罪が問われています。ロバト氏はすでに内務大臣を解任されていますが、警察庁長官パウロ氏の解任も時間の問題でしょう。私にとっては寂しいことです。
 また、インドネシアからの独立後、この国を事実上取り仕切ってきた辣腕の政治家、元首相アルカティリ氏も、法律に規定されていない国軍の指揮(大統領の権限)を彼が執ったこと。また、前述の二人の武器配布を知っていた(認めていた)と国連の調査結果で明らかにされました。アルカティリ氏はすでに首相を辞任しています。この3人は自宅軟禁中ということです。機会があればロバト氏、パウロ氏に会ってこの騒動間の彼らの指揮ぶりや、なぜ武器を市民に渡したのかなど聞きたいものですが。(ヘルマン君が会わせてやると入っていますが未だに実現していません。)
 そしてこの騒動のクライマックスとなった5月25日、双方の誤解と疑心暗鬼が起こした国家警察本部ビル周辺での国家警察と国軍の銃撃戦。ついで法務省前の交差点付近で、国軍の制服を着たグループ(その中には国軍の制服を着た警官もいたという説もある)の一斉射撃によって、付近を行進中だった警察官9人が殺害され20人以上が負傷するという惨事が起き、ついに政府は、国連及びオーストラリア軍などの援助を依頼したのです。この惨事の起きた場所から約300m西の所に私どもの事務所があり、私の二人の同僚は10〜15分程度の違いでこの惨事に巻き込まれなくてすみました。危ないところでした。(私は23日に帰国していました。)この交差点は常駐のホテル(注:普通のホテルとは思わないでください。日本の独房を想像していただければ良いと思います。350ドル/月)から事務所に向かう途中にあります。
 現在は、国連軍警察の投入、オーストラリア軍・ニュージーランド軍の投入により、東ティモールは一時のような危機的状況は去りつつあるようです。大規模な騒動もなく、今の東ティモールの状況は「晴れ(ただいま乾季)、時々殺人」。この騒動の後遺症である東側出身者と西側出身者の対立、小競り合い、時には殺し合いにも発展、そしてそのリベンジと果てしなく続いてはいますが、私ども外国人にとっては身の危険を感じるほどではありません。 しかし、24日夜からから25日日中にかけて、空港付近で暴れていたグループの鎮圧に向かったオーストラリア軍がこのグループから発砲され、その反撃により、グループの3人(市民)が射殺され(未確認)、唯一の国際空港、ディリ空港が閉鎖されました(確認)。5月25日以降最悪の事件が発生した模様です。
しかし、今なお、この国の治安の中心となるべき軍隊、警察が未だ機能していません。治安維持は現在、国連警察及びオーストラリア軍・ニュージーランド軍が行っています。 国家警察の現状についていえば、再建のため、警察官のスクーリニングが開始されたばかりです。対象者は警察本部の幹部、ディリ市内勤務の警官全員と特に指定された部隊長・地区警察署長など980名(警察官の総勢は約3000名)だそうです。(対象者外はそのまま再採用になるということです)。国連軍と東ティモール政府が警察官のスクーリニングを担当しています。スクーリニングが完了し、お墨付きをもらった警察官たちの再教育がポリス・アカデミーで国連により開始されたばかりです。その上、警察本部の長官を含むトップクラス数人の解雇は必至の状況なだけに国家警察の再建には時間がかかりそうです。
ところで、国家警察本部は完全に機能がマヒしており、首都ディリでは警察官の姿はほとんど見あたりませんが、しかし、地方の警察は健在だそうで(日本大使も実際に地方を視察され確認されています)、給料もわたっており(ディリ市勤務の警官でさえ給料はもらっている)警察本部は機能していないが、地方の警察は機能しているという不思議な状態が続いています。この国では「堀右衛門?」がよく使っていた「想定外」の事がいつも「想定内(常態)」なのです。私もすっかり慣れ、あまり吃驚しなくなってきています。
不発弾処理教育を開始した1年半前、ほとんどの学生(警察官ばかりですが)が時計を持っておらず、そういう状態を知らずに、ただ、学生に、時間を守れと厳しく要求していた私たち。私たちはこの国の現状をもっと勉強して教育を進めて行かなくてはと思っています。唯一の救いは抜けるような青空と比較的勤勉な国民性でしょうか。今日はこの辺で

               久光 記
遙かティモール短信(NO16)

    

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