ティモール短信(NO14)    
ティモール短信(No14)
JDRACEOD東ティモール現地代表
    久光 禧敬

 2006.5.10
 5月5日(金)
 今日は日本では子供の日、ディリ市内は静かな夜明けを迎えた。帰国中の大脇君が送ってくれたFAX情報(AFP=共同電)によれば、アメリカ政府は東ティモール在住アメリカ人の帰国を命じたと伝えていた。また、デモ期間中の死者は5名、焼かれた家屋45軒、破壊された家屋210軒、ディリを離れた人は2万1千人と書いている。この数字は私どもの感覚では正確ではないかと思われる。さすがUSA。
市内は車も激減し、数少ないスーパーマーケットは買いだめに来た外人でいっぱい。長嶋茂雄さんの「アメリカに行って驚きました。アメリカにこんなに外人がいるとは」いう逸話と違って東ティモール人から見ると外人ばかりという意味ですが。
5月6日(土)
 ヴィケケに帰ったままの我がオーナー・エレナさんの動きが気になる。ポルトガル統治・インドネシアとの内戦時代を生き延びてきた彼女の動物的カンがディリに戻るのをとどめているのかなあ?彼女が戻ってきたらディリも安全になったと考えた方が政府発表より正確なのかも知れない。彼女の動向は今後、大いに注目していこう。
ドミンゴス君は今日、家族を連れて故郷のマリアナに戻った。しかし、彼との連絡は途絶えたまま。
 5月7日(日)
 8時半に事務所へ。午前中は事務所で過ごす。大変迷ったが、平崎理事長の許可を取り付け、岸良君を帰国させることした。彼は大脇君とともにEOD教育の中心人物として頑張ってくれているが、教育も始まらないし、情勢も芳しくない。また、彼は絶対に口には出さないが、体調を壊しているようである。いやがる岸良君を所長命令だということで納得してもらった。「所長も無理せずに危険と思ったらすぐに帰国してください。教育が始まったら飛んで帰ります」という岸良君。直ちに切符の手配、ディリ〜デンパサール間は徳丸君によると最後の1枚だったそうだ。しかし、デンパサール〜成田間は今日手配できず、明日に持ち越し。
今日になってもドミンゴス君はディリに帰って来ない。やっと通じた電話で彼は、今、マリアナから帰る途中、検問にあい、車を動かすことが出来ない。「君は警官だから問題なかろう」というとそうでもないらしい。誰が検問をしているのかと聞いてみると、「西側出身の脱走した隊員もしくはそのサポーターか?少なくとも国軍や警察ではない」という。彼らがディリ方面に向かう車をここでブロックしているらしい。
ディリ市内は相変わらず静か、政府主催のコンサートが夕刻、政府庁舎内の広場で行われたが、聴衆はわずかで、政府の期待したディリは安全ですよというアピールにはほど遠かったようだ。
夜は、ホテルの岸良君の部屋でささやかなお別れ会。岸良君はまだ、帰国するのを嫌がっていた。
 5月8日(月)
 9時頃、ドミンゴス君がマリアナから帰ってきた。疲れ切っている。彼から情報を聞く。西部方面からディリに向かう幹線道路は解雇隊員またはサポーターたち(警察や国軍ではない)が検問を実施していてディリになかなか着けなかった。脱走隊員およびMP隊員はエルメラ(ディリから南西60km)周辺に集結しているらしい。また国軍MP隊の指揮官Alfredo Reinado少佐と脱走隊員のリーダーGastao Salshina中尉は連携したらしい。逃走時、国軍MP隊の一部の隊員が持ち出した車両でエルメラ周辺をパトロールしている。などなど。
早速、ガルーダ・インドネシア航空の切符を手配したが、11時頃になってやっと取れる。最後まで帰国を渋る岸良君を、徳丸君、パンタレオ・ドミンゴス両君と一緒にディリ空港まで送る。教育が始まれば明日にでも戻ってきますという岸良君も空港内待合室へ消えた。
徳丸君と二人で早速日本大使館へ。大使館員の泉君と東ティモールの治安状況と今後の推移を語り合うが、新しい情報はなかった。むしろ、警察に仲間が多い私の情報をしきりに取りたがっていた。しかし、警察もこのところ、秘密保持が徹底してきていて、私のカウンターパートのヘルマン警部(将来の大物という噂)も、やはり、政府発表以外は極めて口が堅い。徳丸君しきりに怒る。「所長がいつも彼を助けているのにけしからんやつだ」と。私もそう思う。もう少し情報を流してくれたら助かるんだが。
 5月9日(火)
今日も8時半事務所へ。今日から徳丸君と二人。今日は、東部のバウカウからベルタが、西部のアイレウに逃げていた事務員のリナも事務所に戻ってきた。事態もそろそろ落ち着くのかと思っていたら、9時頃、出勤してきたパンタレオ君が、エルメラで昨日(8日)午前11時頃、国家警察UIR部隊の警官1人が殺され、1人が怪我(後になって3人とわかる)をしたという。REGION3(ディリ、アイレウ、エルメラ県担当)のEgidio de Jesus知事がエルメラ付近の視察に出かける途中で解雇国軍隊員に捕獲され、知事および知事を警護していたUIR部隊の救出に向かった救援のUIR隊員が殺されたらしい。その後、州知事は西側出身者でもあり、解放された。殺され、負傷した警察官はすべて東側出身者らしい。
後日、東ティモール政府もあわてて死者の数に関する調査委員会を立ち上げたが、一体どうなっていくのか。
また。昨日(8日)、親米派で知られる閣僚の一人Abel da C. F. Ximenes(開発担当大臣)が辞任をした。この騒動にはアメリカの支援があるのではという噂はあるにはるが。アメリカ大使は「嘘つきは、いつでも、どこにでも、いる」と軽く一蹴している。


               久光 記
遙かティモール短信(NO14)

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