平成15年度王土会講演会(王土会会報 第23号別冊)

 (講師 山本 誠 氏 の略歴)
  ・昭和13年高知県生まれ
・ 昭和35年防衛大学校卒業(4期)
・ 元自衛艦隊司令官(海将)
・ 平成6年12月退官

 「拝啓中南海様」
           山本 誠

 只今御紹介戴きました山本であります。
 私は中国に何回か行く機会がありましたが、色々な人と話しをしたり、一般大衆の行動を見たりしていると、彼らは何となく我々とは異なる評価尺度で生きているという事を直感的に肌で感じる事があります。まず、我々にとっては図々しいと思う位に言いたい事を一方的にズケズケと言いますし、相手が認めたら儲け物といった感じです。
 毛沢東の基本戦略は「敵退る我進む、敵進む我退る」でありましたけれども、下がれば下がる程どんどん出て来るわけで、日本外交は下がりっぱなしで、誠に情けない限りです。「以心伝心と思い遣りの精紳」は我々日本人の間では美徳かも知れませんが、こと外交においてはこれは欠点と言えるのではないでしょうか。
 特に中国に対しては顕著であります。日本の政治家や御用学者、それに外務省のチャイナスクールの連中は中国に行って「御尤も御尤も」と揉手をして、御機嫌とりをやっていますが、これでは中国の思う壺であって、更には誤った信号を与えることにもなり兼ねません。
 私はこれではいけないと思って、中国に行っても、台湾に行っても、同じスタンスで一貫して真実を伝えるべく物を言って参りました。私は一退役軍人として、私の知る限りにおいて、真実の姿を伝え、誤った認識や誤った信号に起因する無用の紛争を少しでも防止できればと思って、今まで言うべきことを云って来た積もりであります。結果としては、それが中国に対しては抑制となり、台湾に対しては励みとなっているのかも知れません。
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 一昨年でしたか、北京に行って、中国社会科学院の日本研究所の人達と議論する機会がありましたが、同時通訳を入れて報道関係者も同席させ、内容はインターネットにも乗せると言うものですから、ここぞとばかり言いたい放題、喧々諤々の議論をして参りました。当時、日本の軍国主義化を主張して話題になっていた蒋立峰氏が副所長で代表格、以下11人程度で若手もいました。蒋立峰氏は現在同日本研究所長になっていると思います。
 話は当然、台湾や靖国神社の問題に及びました。話がエスカレートしていって、蒋立峰氏が、「日米同盟が無くても日本は現在の防衛力で十分国を守れるのではないか」と言うものですから、月並みな質問だが、その為には日本の軍事力を大幅に増強する必要があるが、それでも良いのかと質問してみました。そしたら、それは核兵器を持とうという意味か、それは日本にとって一番危険な選択肢だ。そうなれば日本の前途は暗黒だ――と脅しに掛かるわけです。私も負けずに、それは将来の日本国民の選択だ。逆に「暗黒とは何だ、俺達も核をもつぞ」という次世代の選択が出て来る可能性もあるという事を忘れぬ様にと言いますと、これには反論はありませんでした。
 「日本は何故アメリカと同盟を結んでいるのか、そして何時までそれで行くのか」と聴くので、「『端的に言うとアメリカが強いからだ』かって我が国はその強大なアメリカと戦って、300万人を失い、2発の原爆で一挙に30万人を焼き殺され、完膚無きまでに叩きのめされた経緯がある。現在は彼等アングロサクソンの旗印である自由民主主義文明を受け入れて、基本的には国益が一致する同盟関係にある。日本が今を盛りのこのスーパーパワーに逆らって生き延びる活路は無い。少なくともこれは数百年は続くと思っている。私も永年米海軍と付き合ってきて、その腹ワタまで知っているが、彼等のハイテク、スーパーパワーは生半可なものではない。とても中国軍の及ぶところではない。中国が台湾に手を出せばアメリカは必ずやってくる。そして鎧袖一触だ」と言うと、これには妙に納得した様にうなずく者が多く、反論はありませんでした。
 蒋立峰氏以下年寄組みは、頑なに金太郎アメの様に中南海の建前論をまくし立てますので、まあ当方も負けず劣らずではありましたが「私も老人で頭が固いが、蒋先生の頭も相当に固いですね、私達は客観的な事実を述べてこういう面もありますよと言ってるだけで、貴方達の考え方を変えろと言っているわけではありません。先生の様にこちらの言っている事を端から端から一方的に否定されたのでは何の為の議論か分からなくなるではないですか」と言いますと、若い連中が笑い転げて手をたたかんばかりに大喜びしていました。
 若い連中には西側で教育を受けた者も居るし、根っからの共産党員である年寄り達の言い分にはある程度辟易しているのではないか。確かに若手の考え方は少し変わって来ているのではないかという印象を受けたわけであります。中国側の若手から「将来、中国そのものの民主化も有り得ると思う――中国は台湾が発展していく事を喜ぶべきであり、台湾の民主化を喜ぶべきだと思う――台湾は日本より民主化が進んでいるのではないか」という発言があり、一瞬この人はこんなこと言って大丈夫なのかとこちらが思った程でした。
 上海の研究員は北京に比してもっと民主化・自由化に対する考え方が柔軟な様な気がします。彼等は台湾に対する中国の武力攻撃は有り得ないと断言していますし、彼等の実質的な生活は、台湾と同じ自由圏そのものです。
 私は台湾に行った時も、「中国が台湾に手を出せばアメリカは必ず介入する。従って台湾が参ったと言わない限り、中国は台湾を武力で制圧することは出来ない」と、同じスタンスで発言しています。これは台湾にとって励みになると思います。
 話の導入部に、中国の事情を話題に上げて、「自由化の波は最早止められない情勢だから、共産党はいずれ崩壊するだろう。その時期が何時かという事は断定できないが、唯一言えることは生理学的現象として、今、上層部に君臨している幹部の年寄り連中が居なくなる時期、まあ、20年〜30年の間に変化が起きるのでは」という趣旨の発言をしたところ、翌日の新聞には肝心の話の内容よりも、このことがトップ見出しで掲載されて困惑したことがあります。
 この様な台湾での行状は当然のことながら中南海には筒抜けのことと思います。
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 まあこれだけ言いたいことを云ったのでもう二度とお呼びは掛からないと思っていたら、昨年の5月に、中政懇(中国国際友好聯絡会と交流している自衛隊OBの会)主催の退役将官7名による訪中団の団長で行って貰いたいという話が飛び込んで来ました。
 どうせビザが出るわけがないと思って軽い気持ちで「向こうがOKというなら良いですよ」と返事をしていたわけです。そうしたら、向こうから関係者がやって来て、レセプションに招待されてその席上で、私に挨拶せよと言うので「私は団長として招待されても決して『よいしょ』はしないし、言いたい事を云います。それでも良いというのなら団長を勤めても良い」と言っておいたわけです。これだけ言っておけば断って来るだろうと思っていたところ、それでも良いということになり、遂に行かざるを得ないハメになり、行って来たというわけです。
 向こうで話題になったのは、大体毎年同じことですが、@靖国問題 A台湾問題 B中国脅威論に関する問題 Cそれに昨年は有事法制――が取り上げられました。
 当初の計画では、今年の春リタイヤした遅浩田国防部長と会見することになっていましたが、彼が出張ということになって、中央軍事委員会政治部副主任の唐天標という陸軍上将と会見しました。
 当初、30分の予定であったが、彼がお説教みたいに滔々と喋りまくって25分経っても止めようとしない。例年、相手側が予定時間全部を使ってお説教調で喋りっぱなしで終りになるという事を聞いて居ましたので、途中で手を挙げて「私にも言いたいことがあるので発言の時間を取って欲しい」と言うと驚いた様な顔をしていたが、どうぞとのことであった。彼が30分で終わりましたので、私は逐一彼の言ったことに反論あるいは所見を述べたので、会見時間は1時間15分に及びました。結局私の方が多く喋った計算になります。
(靖国問題)
 靖国問題については、「小泉首相が四月に靖国神社を参拝したが、これは日中友好関係を損なうことになった。我々は小泉首相の靖国神社参拝を納得することが出来ない」と言うものですから、次の様に反論しておきました。
 「靖国神社は一に掛かって日本の国内問題であり、中国四千年の歴史があると云われるが、日本にも二千数百年の歴史があり、日本の精神文化の一つとして、生存中の所行の如何に拘わらず亡くなった人に対しては、その冥福を祈るという精神文化がある――
 日本国民は戦前戦中日本が中国に対してとった政策について、これを正当化しよう等とは微塵も考えていない。しかし、日本人の持つ死者を弔い祀るという精神文化の心の中に手を突っ込んで、これまで変えろと言われると日本人のナショナリズムは刺激されることになる。中国の靖国神社参拝非難はこういった日本人のナショナリズムを呼び起こすこと以外に何の益もない。この事は率直に申し上げておく――
 近年貴国の靖国問題への干渉は日中友好関係に決して役に立っていないし、むしろ逆効果である。現に日本のサイレントマジョリティーの中には沸々とした不満が拡大しつつある。この事は事実として御認識戴きたい」とはっきり伝えておきました。
 私はこの事を訪中する政治家が何故はっきりと言わないのか、腹立たしい限りであります。マスコミ先導で言えない雰囲気を作ってしまったのは日本側の責任ですが誠に残念で仕方がありません。
(有事法制)
 次に有事法制について、日本の防衛政策の変更ととる趣旨の発言がありましたので、「それは違う。有事法制は日本が侵略を受けた際、つまり個別的自衛権を発動した場合、自衛隊を有効に活動する為の法制を整備しようとするものであって、決して政策の変更などではない。普通の国として、国防の体制を整えようとしているだけの事である――日本の憲法は、有事における非常事態条項が全く欠如した世界に類型を見ない憲法である。非常事態が発生した場合に『国家指導者に権限を与える条項』『一般市民の私権を一部制限する条項』及び『地方自治体や民間組織に協力を義務づける条項』が全くない――これらの基本的事項を定めた『武力攻撃事態対処法案』、有事自衛隊の行動を円滑にする為の『自衛隊法改正案』及び安全保障会議の機能強化を図る『安全保障会議設置法改正案』の3つであり、決して海外に出ていくことを目的としたものではなく、日本国内の体制について25年間できなかったことを、今やろうとしているだけの事である。これが整備されても決して外国に脅威を与えるものではないことを御理解戴きたい」と説明しておきました。
 有事法制は6月6日に一応成立しましたが、御承知の通り国民の理解を強調するあまり、義務や強制を伴う内容は排除され、「協力するよう努力するものとする」等なっているし、警察行動と防衛出動の間のグレーゾーンの事態に対処する為の領域警備については全く空白のままだし、未だこれからといったところです。
(中国脅威論)
 次に中国脅威論でありますが唐天標副主任は中国解放軍240万を支える軍事予算は約200億ドルであり、150万規模の米軍の予算は3,834億ドルで中国の19.2倍、日本の防衛費は460億jで中国はその36%にすぎないと数字をあげて縷々説明し、要するに240万の兵員に飯を食わせるのが精一杯で、軍の近代化にあて得る金は微々たるものだと切々と訴えるわけです。
 中国の軍事予算は公表レベルより多いと言われているが、実効3倍としても150規模の米軍の予算に比べてわずか15%から16%であり、彼は軍事予算の相当部分が兵員の日常の食費等に費やされると説明するが、一部本音かもしれません。
 定員26万、実員24万規模の我が国の防衛予算に比べても実効3倍と計算して1.6倍という額であります。自衛隊の10倍の規模の兵力で1.6倍ですから単純に計算しても全般に行き渡る一人当たりの予算は1/6と言う事になります。
 訪中時、天津にある外国人に対する展示用の部隊である196旅団を見学する機会があった。特科出身の団員が年間の砲一門当たりの発射弾数を質問したところ、即座に10発〜12発という回答が返って来た。突然の質問に躊躇なく即答したその場の雰囲気から言って、あながち嘘ではないと思われるが、これは自衛隊の1/5〜1/6に過ぎない量である。兵力規模に対する予算額からすると納得出来る数字ではあります。
[中国軍の概要]
 【陸軍】
・ 約160万人、戦車約9,200両、総じて火力機動力が不足しており、1960年代に採用された装備が主体となっている。
・ 全般的に近代化があまり進んでいない。
【海軍】約25万人
・ 潜水艦 65隻、全体として旧式、雑音レベル高い
・ 戦闘艦艇62隻(ソブレメンスイ級ミサイル駆逐艦2隻)160qSSm
その他艦艇 約650隻
  ☆ソブレメンスイの他は旧式小型
☆ コーストガードの域を出ない
☆ 空母保有の可能性あり、そうなると総合能力が大幅にアップするので、海自  としても防空空母を保有する等対抗策を講ずる必要あり
 【空軍】約42万人
  戦闘機約2,700機、爆撃機約150機
  計約四千機
・ 比較的行動範囲に余裕のある新鋭機
Su27、Su30約130機(将来増勢の方向←ロシア)
・ 台湾上空まで来てどうにか戦えるJ‐8級 約200機
・ あとは旧Migのコピーで台湾上空まで来るのがやっとといった旧式機(台湾上空で殆ど戦闘能力なし)Su27、Su30、J‐8 計約330機
 台湾側 第4、第5世代の新鋭機420機
【第2砲兵】ミサイル部隊 約10万人
・ ICBM D‐F約20発 
 射程1万3千qアメリカ本土に届く、
 D‐31数発配備か 射程8千q
 アラスカ、ハワイに届く
・ IRBM 130〜150発 射程2千〜4,750q全て日本に届く
 核弾頭保有、我が国にとって直接脅威
 MD必要
・ SRBM 350+α発、 射程300〜600q 台湾向け
・ SLBM 12発、射程2,150q 米国向け、勿論日本にも届く
[中国軍の組織]
・ この春、遅浩田国防部長引退、後任は最古参の曹剛川
・ 解放軍は国民軍ではなく共産党の軍隊
・ 元々内戦を戦う為に編成された八路軍の流れをくむ軍隊
・ 陸軍主体であって、上層部は皆陸軍首脳が占めている。
・ 現在でも国内の混乱を防止し、国内の統一を維持するのが暗黙の内の大きな任務となっている。従って解放軍240万の規模はどうしても必要であって、国民軍にして少数精鋭化できない事情があります。若手の中に国民軍にすべしとの議論がありますが、全て抑え込まれています。これは共産党崩壊に繋がる可能性があるからです。
・ 従って、中国軍は本来海を越えて外征する様に出来ていない軍隊である。
・ 先程少し触れた196旅団にしても、外国人見学者によい所を見せようとして訓練された部隊だと思ったが、この部隊でさえ未だに屯田兵としての性格を残している。
・ 今でも自前の田畑を所有し、養豚、養鶏,養魚、それに農産物の生産に従事している。
・ 今は大分減ったと言ってはいたが、約十%の食料は自給自足しているとのこと。
・ 豆腐やソーセージ等自家製の食料を生産する施設も見学した。
・ この様に農業を営むのはごく普通のことであって、表向きには3年前に禁止という事になっているが、未だにホテル経営等の事業をやっている部隊もあると聞いている。
・ 事業禁止の理由も赤字となる場合が多いからであり、黒字の場合、そのまま続けている部隊もあるのではないか、との関係者の言あり。
・ このあたりが、我々自由圏国家の国軍と全く異なる性格を有する軍隊である。
・ この様に陸軍主体で土着の共産党の私兵的な軍隊であり、江沢民が権力維持の為に中央軍事委員会の主席として残留している意味が理解できる。
・ 空軍についても数回の訪中で同行した空自出身のOBが、酒席で中国空軍幹部がチラチラと漏らす本音の話から、彼らの航空機の運用には問題点が多く、彼らの練度は極めて低いと判断せざるを得ないと言っていた。
・ Su27、Su30といった新鋭機でも、これを使いこなす練度には達していないのではないか。編隊飛行がやっとといったところの様である。
・ 2年前に香港でロシア航空会社の関係者が、中国のSu27は操縦ミスが原因と思われる故障が続出して、半数は動かないと発言していた事実もある。
・ 私自身も航空機の可動率が低く、事故が頻発して士気が低下しており、人的資源(練度を含めて)が低下しているという情報をある筋から入手している。
・ 更に民間ののスパイ衛星イコノスの捕らえた影像から台湾に投入出来る航空機の数は、通常言われている数の1/3程度であるといった情報もある。
・ 航空機の可動率を上げ、訓練時数を確保して高練度を維持する為には、大変な経費が掛かる。
・ 航空自衛隊の航空機約五百機にたいして、中国の空軍は約四千機
・ 中国の軍事予算は陸海空の他にミサイル部隊もあり、おまけに陸軍主体であるので、空軍に割り当てられるのは多くても20〜25%程度と見積もられる。
・ 中国の軍事予算が公表の3倍としても、活動維持費として1機当たり充当出来る予算は空自の1/4以下というレベルである。
・ 空自においても最近予算が削られて年間訓練時数が米国240h、韓国180hに対して150hと、圧迫され可動率と練度維持に大変苦労しているのが現状である。

 この予算額を見ると中国側がやっきになって説明していることもあながち嘘ではなく、数は揃えていても、旧式装備が多く、実際に海を渡って運用出来る能力はかなり低いレベルにあるものと見積もられます。現実の問題として、240万規模の軍事力を抱え、一部弾道ミサイル等の開発は先進国に追随しているとはいえ、全般としては、旧態依然とした装備のまま近代化が進んでいないというのが、陸軍主体の中国軍の実態ではないかと思います。決して過小評価する訳ではありませんが、実態はこんなもんだと思います。軍事予算は年々増加しているとはいえ、数十年の技術格差がある上に、中国の軍事予算を公表レベルの3倍にしても、その6.4倍もの予算を投入するハイテク米軍に中国が近代化で追いつくことは、当面おぼつかない状況にあると思います。
 中国の経済が飛躍的に成長しているので、やがては格差が縮まるとする見方もありますが、私は経済学者ではないが、これには疑問があります。
 上海では一人当りのGDPは4,500j北京では3,500ドルに達している中で、中国の平均は900ドル程度であり、人口の70%を占める農民の多くは僅か200ドルというところもあると言われています。中国科学院、国際情勢研究センター主任であり清華大学教授である胡鞍鋼という社会経済学者が、中国は次の4つの世界に分離しつつあると言っています。
第1 世界は上海、北京、深?で人口の2.2%
第2 世界は沿海部で人口の22%
第3 世界は東北部で人口の26%
第4 世界は中西部中心の貧困地区で人口の50%
 国内の経済格差を示すジニー係数というのがある。0.3位までは比較的平等、0.4を越えると社会不安が高まり、暴動の危険性が出て来るといわれる。現在は0.5に達し、更に増大の傾向にある。何時暴動や革命が起きても不思議ではない。一説によると、今の所、食料が足りているので治まっているが、一旦食料が不足する様な事態になれば、爆発すると言う学者もいます。
 私はこの様な状態でこのまま中国経済が直線的に成長を続けるとはどうしても思えません。その前に一党独裁の共産党が崩壊するか、分裂するか、何かが起きるのではないでしょうか。従って、私はマクロ的に見て、中国の軍事力の増強が、そのまま直線的に続く状況にはないと思っている。
 従って、私は「中国脅威論に対しては日米同盟を堅持することを前提にすれば、現時点において中国は日本滅亡に至るレベルの脅威だとは思っていない。しかし、我が国に直接届く核ミサイルを保有しているのだから、これは大きな脅威である。また、何か騒動を起こして、地域の不安定要因となることを恐れている」と述べておきました。
 本来ならばここでMDについて述べておくべきでありましたが、言いそびれてしまったことを誠に残念に思っております。唯一の直接脅威ですので是非触れておくべきであったと反省しています。
(台湾問題)
 台湾問題については、何処に行っても金太郎アメの様に「独立派が独立を宣言する様なことがあれば、それは台湾にとって災難を齎す以外何物でもない。中国は平和統一を目指しているが、武力行使はやむを得ない手段として、これを放棄する事は出来ない」という主張を繰り返す訳であります。
 これに対しては「私達民主主義国家の人々は、勿論米国を含めて台湾問題は一重に台湾に住む人々の民意に依るべきものと信じている。先程台湾統一のための武力行使を放棄しないと言われたが、私は長年に亙って米軍との共同訓練に従事して米軍のハイテクスーパーパワーを、その腹わたまで熟知している。くれぐれも軽挙盲動して血気に逸ることの無い様忠告申し上げる」と述べておきました。
 国防大学におけるディスカッションにおいても、中国脅威論や台湾の話が中心になりました。
 「そこで私は、台湾有事になれば、米国は必ず介入してくるよと。そうなれば、軍事的な観点からごく客観的に見て中国軍は米軍を撃退することは不可能に近い。その米軍が出て来ると分かっていても、政府の命令とあらば勝ち目の無い戦いに立ち向かわざるを得ない貴方々に同じ軍人として心から同情する」と前置きしておいて、「国防大学は、政府に助言を行う諮問機関としての役割もあると聞いているが、軍人にとって死を選ぶよりも辛いことかも知れないが、勝ち目のない米軍との戦いを回避する様進言する勇気を持ち合わせているや否や」と、少し意地悪な質問をしてみましたところ――
 最初は「そんな事したら自分達の首が飛ぶ」と、いわば本音の返事が返って来ましたが、ややあって、思い直した様に顔を真っ赤にして「弱いから負けるとは限らない。我々は何がなんでも戦う」と、こう言います。
 そして「もし米軍が来たとしても米軍の空母は台湾海峡の中へと沈み込んで行くであろう」と言いますので、「その事態になれば米軍の空母が沈む前に、中国軍が台湾海峡に沈んで行くことになるだろう。くれぐれも軽挙盲動して、血気に逸る事の無い様要望する」とやり返しました。すると隣に居た副団長がしきりに私の袖を引張るわけです。私は何回も中国に来て、この位の議論は日常のことですので、確信犯ですが、初めて行った団員は若干驚いた様子でした。
 しかし、これ位の事を言わなければ核心をついた議論にはなりません。国防大学側の言っている、弱くても負けるとは限らないというのは朝鮮戦争の事を言っているらしく、あの時も中国は米軍とよく戦って頑張ったのだと言う事を言ってるわけです。
 しかし、台湾の場合、陸続きの朝鮮半島と違って150q〜200qはある海峡を越えなければならないと言う難関があるわけでありますが、八路軍の流れを汲む陸軍主体の彼等には海洋戦略というものが良く解かっていないのでないか、と言う気がしました。
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 まあこれだけ言いたいことを言って帰ってきたのだから、しばらくはお呼びが掛からないだろうと思っていたら、七月に上海の戦略研究所から研究員がやって来て安保問題を討議するから参加する様呼び出しがあり、私は排除されませんでした。
 これは一体どういうことだろう。考えて見れば先般、江沢民が日本に来て宮中で歴史問題に言及し、日本中が「白けた」ことがありましたが、江沢民には日本外務省のチャイナスクールや訪中する政治家や御用学者の「よいしょ」の情報しか耳に入っていないのではないか。大衆レベルの意見を聞く為の「目安箱」も途中で止まってしまって、上にあがらないと言われていますので、本当に都合のよい情報しか届いてない可能性があります。
 中国文化科学院日本研究班の関係者や、しょっちゅう日本にやって来て安保論議をやっている戦略研究所の人達は、何とかして日本のサイレントマジュリティーの声を上に報告しなければならないとの思いがあって、我々との議論を上に報告する事によって、こんな事を考えている日本人もいるということを上に伝えようとしているのではないか。だから私達が排除されずに呼ばれているのではないか。そう思う様になったわけであります。
 それならそれで良いではないか。それを承知の上で我々の考えている事を中南海に伝えようではないか。そう思って七月の上海戦略研究所の研究員に伝えたのが、これから述べる話であります。
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 中国の各種研究所の人達と議論すると、台湾問題が必ず話題に上がる。私達が彼等に言いたいのは「中国が台湾に手を出せば、米国は必ず介入し、必ず失敗しますよ。そしてそれが中南海の命取りになるかも知れませんよ」と言うことであります。
 皆様御承知かと思いますが、台湾はオランダ時代、鄭成功時代、清朝時代、日本統治時代、第二次世界大戦終結から現在に至る時代を通じて大陸から実質的に支配された事は一度もありません。一時、清が統治しようとしたことはあったが、実質的には点の支配であり、日本やアメリカとのトラブルが発生した際、清は「化外の地」と称して、その統治責任を放棄した実績がある。大陸からの文化を受け継いだ同一文化圏としての繋がりはあるが、日本や韓国と同様、台湾と大陸は「臍の緒」は繋がってはおりません。
 大陸からの移住者が多く、DNA的な繋がりは否定できませんが、原住民の子孫も多く、台湾は独自のアイデンティティーを持った別の国です。ましてや現在の中共の支配を受けた事実は全くありません。
 自由民主主義を基本理念とする我々は、勿論アメリカもそうですが、台湾問題は一に掛かって基本的には台湾住民の民意によるものと思っております。その台湾が住民の民意によって独立を宣言したからといって、中国の一般大衆には何の支障があるというのでしょうか。
 中国を訪問して、一般大衆の生活を見ていると、事実上の独立国として経済活動をしている台湾が独立したからといって、物理的に中国人の市民生活には何の変化も起こらないと思います。現に、一般市民に台湾の独立について質問してみますと、ほぼ全員が台湾は中国の領土であると答えます。これは教育の成果であり当然のことでしょう。
 ところが「台湾の人達がどうしても独立したいと言った場合、無理矢理これを否定して強引に統一しようとするのは理不尽ではないか」という質問に対しては「そんなに独立したければ独立すればよいではないか。私は一向に構わない」という回答が結構多いのです。特に若者、中でも若い女性は殆ど10人中9人まで無関心です。
 であるのに、何故中国の指導者達は頑なに台湾独立に反対するのか。突き詰めて行けば台湾独立反対は中南海の人達が政権を維持する為のステイタスシンボルになっており、チベットや新彊ウィグル自治区との絡みもあって、振り上げた拳を降ろすに降ろされない状況になっているのではないでしょうか。
 そこで一つの仮定として、台湾が民意に従って独立を宣言したらどうなるか。中国の取り得るオプションは大きく分けて2つあると思います。
 その1つは五年後にオリンピック開催を控えていることもあり、事を荒立てることは得策ではないと判断して、声高かに威嚇し、独立は認めないとする姿勢は維持するものの、何ら具体的な行動に出ないということであります。しかしこれでは、今までの言質に悖ることになり、中南海の威信は大きく傷付き,低下することになるでしょう。
 2番目のオプションは台湾に対し武力を行使することであります。しかしながらアメリカはこれに対しては敢然として介入してくるでしょう。キリスト教的自由民主主義を旗印として日本やドイツと戦い、朝鮮半島やベトナムで戦い、アフガンや今回のイラクで戦ってきた彼等にとって、自由民主主義の進んだ台湾はいわば自由民主主義文明圏の出城であります。これを拱手傍観して見捨てれば、彼等が多くの若者の血を流しながら、この百年間やって来たことは一体何だったのかということになります。それに他の多くのアジア自由権諸国の信頼を失うことにもなるでしょう。
 アメリカが介入を躊躇するのは、陸続きで陸上兵力の投入を必要とし、かつ泥沼に入る可能性がある場合であります。ところが台湾海峡は150〜200qあり陸上兵力を投入する必要がありません。海空のハイテク兵力を投入することにより米軍将兵の被害を最小限に抑えながら多大の成果を挙げ、しかも短期間で所要の目的を達成出来るのです。それに海空兵力は投入も容易であると同時に撤収も容易であります。従って米軍の介入は極めて容易であるということであります。
 こういった戦略環境の中で、中国が台湾に対して武力行使に出たら一体どうなるのか。中国の取り得る具体的な軍事行動の成否について検討してみたいと思います。軍事専門化である皆様には釈迦に説法と申しますか、誠におこがましい限りですが、私が上海戦略研究所に説明した話としてお聞き戴ければ幸甚です。
 中国の取り得る可能行動としては、@ミサイル攻撃A着上陸侵攻B海上封鎖 と大きく分けて3つの方法が考えられますが、これをやったらどうなるか。
(ミサイル攻撃)
 まず第1に通常ミサイルによる攻撃でありますが、これだけでは台湾を制圧することは出来ません。
 1999年の台湾地震では9万6千個の家屋が全半壊し、2,372人が犠牲になりましたが、数百発の通常型ミサイルによる被害はこれよりずっと少ないであろうという事であります。それに地震は突然やって来ますが、ミサイル攻撃の場合は、ある程度情勢の変化に応じて防御できる余地があります。
 中国はあと数年で600発の通常型ミサイルを保有すると言われておりますが、通常型ミサイルには御承知の通り炸薬量に制約がありますので、600発でもトータル500トン前後だと思います。
 コソボにおいては、NATO軍は78日間に亙って23,000発の爆弾と310発のミサイル攻撃を行い、その弾薬量は11,500トンに達したと言われております。500トンと言えば、その約4.4%のオーダーであり、更に一度に全弾を使用すれば、その後の威嚇効果がなくなるので、実際にはもっと少ないオーダーになるものと思われます。それに米軍が介入することになれば、中国のミサイル基地に対する攻撃も考えられ、更に被害は減少すると思います。中国が台湾に対して準備しようとしている弾薬量の数十倍もの攻撃を受け、それでもユーゴは参ったと言いませんでした。唯コソボから兵力を引いただけです。
 ユーゴは四面楚歌に近い状況にありましたが、それでも頑張りました。台湾にはアメリカという強力な助っ人がついています。この程度の事で台湾が参ったと言うわけがありません。台湾が参ったと言わない限り、中国はミサイルで台湾を制圧することは出来ないわけであります。
 重要施設に対するピンポイント攻撃については、現状の中国ミサイルのCEPが大きいので困難と思われますが、将来的にはPAC3によるポイントデフェンスを考えればよいと思います。
 この話をした後、休憩時間に上海側の中堅の研究員がそーっと私の所に寄って来て「実は私はコソボ攻撃の時ヨーロッパに居て、ミサイル攻撃が役に立たないと言うことを実感したので、それを上層部に上申したところ、『ケンモホロロ』に却下されました。しかし、今日提督の話を聞いていて、自分の見解が正しかったという事に自信を持ちました。本当に有難うございました」とお礼を言われて、私の方も少なからず自信を持ったわけであります。
 それでは核ミサイルについてはどうかと言う事になりますが、核については第二次世界大戦末期に米軍が広島と長崎に投下したのが最初でありますが、その凄まじい威力と放射能による被害があまりにも悲惨であった為、その後の使用は控えられ専ら抑止力として機能して来た経緯があります。
 「自ら核による先制攻撃は行わない」「非核保有国には核を使用しない」「核による威嚇は行わない」と宣言している中国が世界で最初に、しかも彼等が自国民と称している台湾に核を使用したらどうなるでしょうか。世界中の非難が集中し、台湾統一の機会は永遠に失われることになるでありましょう。それに台湾を破壊し尽くすことは中国にとって何のメリットもないし、中南海に対するアメリカの報復も否定出来ません。
 先程の通常型ミサイルの時も同じですが、核を使用しても最終的には地上軍が行かなければ台湾は制圧出来ません。しかし、こうなると米国始め世界中がそれを認めるはずがありませんので、中国軍は台湾には渡れないということになります。
(着上陸侵攻)
 次に着上陸侵攻という正攻法が考えられますが、この為には中国軍は台湾海峡を渡らなければなりません。台湾側は航空機あるいは陸上に配備したミサイルで反撃し、水際には機雷を入れて防御することになるでしょう。中国軍がこの防御網を突破するためにはまず制空権を確保する事が不可欠の要件となります。台湾側は当然これに抵抗します。結局航空優勢を巡る戦いが、陸上作戦の成否を決める鍵となります。
 現在の航空戦は、レーダーサイトのレーダーで航空機をコントロールして、敵の姿を見る前にミサイルを発射して撃墜するというハイテク戦闘であります。大陸基地から台湾上空まで優に200q以上あります。200qも離れると御承知の通りレーダーのコントロール機能は大幅に低下しますので、台湾上空にやって来る中国の航空機は大きなハンディを背負うことになります。その上、米国が介入すれば、大陸側のレーダーサイトに対する目潰しのミサイル攻撃は必至ですから、大半のサイトは破壊されることになるでしょう。
 更に200qを往復するとなると、それだけで燃料を相当消費しますので、これもハンディになります。勿論、AEW機や給油機を揚げることも考えられますが、これ等の動きは極めて鈍重であり、これらは米軍のミサイルの格好の標的となるでしょう。
 中国側もミサイルで台湾のレーダーサイトを攻撃出来ますが、台湾側は中国のミサイルの届かない台湾東部の海域にAEWを揚げることにより、レーダー機能を十分確保できます。滑走路にミサイルで穴が開いても1〜2時間で復旧出来ますし、航空機は掩体壕で保護すればよいわけです。
 結局のところ台湾上空での航空戦は息切れ寸前の視覚障害者と、元気一杯の健常者との戦いということになり、勝負は目に見えているということになります。それに勢力から見ても現状では、先程も述べました様に、台湾上空までやって来て戦える中国の航空機よりも台湾側が優勢でありますし、これに米軍が加われば中国側はお手上げの状況です。
 将来中国側が優勢になるとする見積りもありますが、そうなっても台湾上空でのハンデには変わりなく、米軍が介入すれば中国が台湾上空で航空優勢を確保することは、まずは出来ない相談ということになります。結果として、中国軍は台湾海峡を越えることは出来ないということであります。
 因みに第二次世界大戦中、ドイツがイギリス上陸を目指して大軍を集結させながら、僅か40qのドーバー海峡を渡れなかったBOB(これは上陸に必要な制空権の争奪戦であったわけですが)は古くて新しい教訓であります。
(海上封鎖)
 次に考えられるのが海上封鎖でありますが、台湾を封鎖して窒息させる為には、主要港である基隆と高雄を封鎖しなければなりません。
 しかし両港共、近年近隣諸国へのハブ港としての役割を果たしており、台湾だけの港ではなくなって来ております。これを封鎖するとなると、近隣諸国にも少なからず影響を及ぼすことになりますので、中国が国連の制裁を受ける事態に発展する可能性も十分あります。そうなるとアメリカの介入はより容易になります。
 それでも封鎖を行うというのなら、航空優勢を確保出来ない中でやらねばなりませんので、潜水艦を使用するより他に方法はありません。潜水艦を使用するならば二つの方法があります。
 その一つは、基隆や高雄に出入りする船舶を魚雷やミサイルで攻撃するというやり方です。この場合、あまり離れた海域でこれをやると、台湾に関係の無い船舶にも被害が及ぶことになり、全世界を敵に回して制裁を受けることになります。従って台湾を目標にするならば、ある程度港の近くにエリアを設定して、出入港を阻止せざるを得なくなります。
 そうすれば台湾側はその海域に対潜兵力を集中して潜水艦を捕捉撃破すればよいという事になります。台湾海軍も相当に能力を発揮すると思いますが、米軍のP3Cが介入すれば、瞬く間に中国潜水艦は制圧されるでありましょう。基隆、高雄は港を出るとすぐに水深が深くなっており、P3Cの得意とする海域です。中国は約六十五隻の潜水艦を保有していると言われていますが、雑音レベルが高く、P3Cの格好の標的となります。中国潜水艦にとって、P3Cは恐るべきハンターとなるでありましょう。
 潜水艦にとって、もう一つの方法は、隠密裏に機雷を敷設することであります。しかし、先程も申しました様に、基隆と高雄は天然の良港でありまして、港を出るとすぐに水深が深くなっております。機雷は一定以上水深が深くなると機能しませんので、機雷を敷設出来る海域は港口近くのごく限られた海域に限定されます。
 隠密裏に機雷を敷設すると言っても狭い海域に潜水艦を同時に多数入れるのは航法上危険でありますので、一度に入れるのはせいぜい1〜2隻程度であります。それに一隻が運べる機雷の数は30〜40発程度でありますので、それ程多くの機雷を敷設する事は出来ません。それに機雷が入ったからと言って、直ちに全域を掃海する必要はありません。1,000〜2,000mの幅の水路を設定してその中の機雷を排除すれば船舶の航行は確保出来るわけであります。
 台湾側が掃海水道を何処に設定するか分からないわけですから、設定しそうな海域に万遍なく機雷を敷設しようとすると、相当疎らな機雷原にならざるを得ませんので、設定水路内で処分する機雷の数は一桁にとどまる可能性もあります。その後は、2本目の水路を余裕を見て啓開し、あとの海域はゆっくりと掃海すればよいわけです。
 中国が封鎖を続行する為には、台湾側が設定した掃海水道に新たな機雷を敷設する必要があります。しかし、最初に敷設した地雷原に入ることは自殺行為になりますから、掃海水道の入り口付近までやって来て機雷を敷設しなければならなくなります。であれば、そのピンポイントに台湾側の対潜部隊が待ち受けていれば一網打尽ということになります。元々潜水艦は所在を明かにしないのが運用の基本でありまして、敵の待ち受けているピンポイントに行かねばならない様な作戦は、潜水艦作戦としては愚の骨頂であります。
 中国の採り得る具体的な軍事行動は以上の通りでありますが、いずれも成功の見込みはございません。いずれにしても、2番目のオプションである台湾に対する武力行使は必ず失敗します。その結果、中南海は大きな打撃を受け、その威信は失墜し、地に落ちる事になるでありましょう。状況によっては、政権維持も困難になる事態も否定できません。
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 中国は経済発展が目覚しく、正に「日の出の勢」とする報道もありますが、先程申し上げました様に、その裏には大きな問題を抱えています。貧富の差は益々拡大する方向にありますし、先程申し上げました、ジニー係数もすでに0.5を越えて更に増大する方向にある中で、私が中南海の方々に言いたいのは、自分の頭の上の蝿も追えないのに、欲張って領土拡大に走り、台湾独立阻止などと言っている場合では無いのではないかということであります。
 台湾問題は中国にとって危険なゲームであります。今の内に大怪我をしないうちに、振り上げた拳を、それとなく静かに降ろして行くのが身の為ではないかと、彼等と議論する度に言っているわけであります。
 昨年5月の訪中時には、行く先々で米国のイラク攻撃について、「米国は本当にイラクを攻撃すると思うか、提督の判断はどうか」と聞かれますので、「私は、フセインが無条件降伏しない限り、アメリカは必ずやる。アメリカを決して嘗めて掛かってはいけない」と言っておきました。今回のイラク攻撃を巡って、アメリカの行動を中国指導部が、台湾問題に絡めてどう受け止めているか、大変興味深い所であります。
 本日の産経新聞のトップ記事に胡錦濤政権に影響力を持つといわれる、中国人民大学国際関係学院の52才になる時殷弘という学者が「日中接近を最大の外交任務とせよ」という論文を発表して、中国国内で脚光を浴びているという記事が出てましたが、「彼は@歴史問題については、従来の日本側の反省と謝罪表明で満足せよ。A日本の対中投資を優遇し、最高指導者が対中経済援助に謝意を表明せよ。B日本の防衛力強化を『軍国主義への道』とする表明を止めよ。C北朝鮮問題など地域の安保や経済協力などで協調せよ。D日本の国連安保常任理事国入りを積極的に支持せよ等」と述べて、従来のやり方で相互の嫌悪と敵意の増長が進めば、日本に反中軍事勢力が台頭して、中国の安保に深刻な脅威になる危険性があると言ってます。
 胡錦濤がこれを認めて、方向転換すれば大きな様変わりになると思いますが、この様な論文がまかり通る様になったと言うこと自体、指導部の若返りによって中国が少しずつ変わり始めているということを示唆するものかも知れません。
 我々もこの時期に言うべきことはきちんと主張していくことが極めて重要であると思うわけであります。
 これで私の話を終わらせて戴きます。御清聴、誠に有難うございました。


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